症例紹介 CASE

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猫の糖尿病・ケトアシドーシスについ

院長の橋本です。毎月症例報告を書く予定が、早速先月お休みしてしまいました。

不定期になりますが、続けれるように頑張ります!

 

今回は猫ちゃんの糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の診察と治療→回復をしたので

投稿したいと思います。

 

糖尿病というと『血糖値が高い』とか、『おしっこに糖がでている』とか、『インスリンを注射しないといけない?』など

色々思いつくかもしれません。

 

症状は軽いものから、重いものがあり、全てがこういう状態になるわけではないのですが、

今回は糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)についてまとめてみました。

 

 

そもそも糖というものはなぜ必要なのか?

それは体を動かすためです。

細胞が糖を取り込むことで、エネルギーが生成でき体を動かすことが出来ます。

 

正常な細胞がエネルギーを生み出すためには、様々な材料が必要になります。

ブドウ糖(Glu:グルコース)も、もちろんそうですが、他にも重要なP:リンK:カリウムというものがあり

Pはアデノシン三リン酸:ATPというエネルギーの主材料になっており

KはナトリウムNaとともに細胞としての機能維持や電気発生を行っており重要です。

ブドウ糖を主体にATP(エネルギー)を多く生成します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図は健康的にエネルギーを得られている『細胞くん』です!

細胞の中にはGlu、P、Kが多くあり、それを材料としてエネルギーを生成できています。

細胞の外は細胞外液という部分で、ざっくり簡単に説明していますので血管内とイコールとします。

健常では血管内(≒細胞外)にGlu、P、Kが適量にあり、十分に取り込めています。

Gluを細胞内に取り込んでくれるのが、膵臓から分泌されるインスリンという酵素です。

インスリンはGluを取り込むとともに、P、Kも一緒に細胞内へ取り込みます。

 

糖尿病になった猫ちゃんの細胞は以下です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た目にもエネルギーが作り出せていない『細胞ちゃん』です。

細胞内のGlu、P、Kが少ないのが特徴で、エネルギーが作り出せません。

インスリンの作用が弱かったり、インスリンが無かったりで、

ブドウ糖Gluを細胞内に取り込めなくなるばかりではなく、PやKも取り込めていません。

 

ケトアシドーシス

口から摂取した栄養素で、細胞がATPエネルギーを生成できないと判断した場合、

猫は体の脂肪を分解し、脂肪酸からATPをほんのわずか生成します。

その時、副産物としてでるのがケトン体で、ケトン体が体に蓄積したのがケトアシドーシス(代謝性アシドーシス)という状態です。

ケトアシドーシスは糖尿病の管理不足の猫にみられ、末期状態でそのまま治療しないと死亡します。

細胞を動かすエネルギー不足に陥っているために、猫はぐったり立ち上がれず昏睡状態の場合もあります。

糖尿病性ケトアシドーシスの特徴的な血液所見は以下です。

  • Pは高いか、もしくは正常。しかし、細胞内と細胞外液のトータル量は完全に不足している。
  • Na、K、Clなど電解質はすべて低め。Na、Kは相反することが多いがどちらも低めが特徴。
  • Gluはすごく高い。
  • 中性脂肪TGがすごく高い。
  • 肝リピドーシスに陥っている場合は肝酵素(GPT、GOT、ALP)の上昇、ビリルビンT-Billの上昇が認めれ、見た目に黄疸しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

糖尿病猫ちゃんのデータですが、右の基準値に比べGluがすごく高く、電解質がすべて低いことがわかります。

添付はしていませんが、中性脂肪TGは、1000以上と上昇し、測定不能でした。

ちなみに尿には尿糖やケトン尿がでます。

 

生体ホメオスタシスの改善

治療としての目的は、インスリンを注射して高い血糖値を下げましょう。。。

 

ではなくて、あくまでインスリンはその手段なんです。

本来の目的は、細胞内でエネルギーを作り、生体ホメオスタシスを改善させましょう!!なんですね。

 

  • まずはP、K、水分を血管内へ十分補給し、細胞外液へ材料を補充します。

これは入院中、インスリン治療中も数値を見ながら、さじ加減で調節します。

 

  • 次にインスリンを注射します。作用としては細胞外液のGlu、P、Kを低下させ、細胞内のGlu、P、Kを増加させます。

急激に低K血症を起こし、低P血症から重度の溶血性貧血を起こします。全く食べれれないケースがほとんどなので入院・点滴での補充をするケースが多いです。

 

この猫ちゃんは3日くらいで急に電解質のバランスがよくなるポイントがあり、

ケトアシドーシスから離脱しホメオスタシスが改善したんだなという兆候が感じとれました。

1週間ほどで退院し自宅管理をお願いしました。その後、2,3週間でインスリン注射からも離脱し完治し、現在は食事療法のみです。

猫ちゃんの糖尿病は治るケースもあります。これはご家族様が自宅での治療を上手にコントロールしていただけたからだと思います。

 

長文になりましたので、これで終わりにします。

ご自宅での糖尿病管理につきましてはまた機会があれば投稿してみたいと思います。

 

あくまで当院で行っている診断・治療を元にしています。

ご参考にしていただけたら幸いです。

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